NIMDの活動

水俣病の臨床研究に取り組むメグセンター

メチル水銀中毒の客観的評価法を検討するために、平成21年に国保水俣市立総合医療センター内にメグセンターを開設しました。「メグ」とは、脳の活動状況を調べる脳磁計(MEG:Magneto Encephalo Graphy)のことです。
メグセンターでは、水俣病患者や水俣病被害地域の高齢者を対象に最新の検査を実施し、その結果に基づいて生活指導を含めた健康相談を行っています。また、国立水俣病総合研究センターに「水俣病の治療向上に関する検討班」を設置し、これまで改善が困難であった水俣病の症状に対する最新の治療研究を行っています。

水俣病の客観的評価法について

水俣病の症状には感覚障害、求心性視野狭窄、運動失調などが見られますが、脳磁計により大脳の感覚野の機能異常、MRIにより小脳及び視床の萎縮をある程度客観的に評価できるようになりました。これらの指標を用いて、水俣病を客観的に評価できる最適な手法の確立を目指しています。

脳磁計検査

脳磁計は、脳から発生する僅かな磁気をリアルタイムに計測して脳の活動状況を捉える機器です。手首の正中神経を刺激することで生じる体性感覚誘発磁場を計測することで、感覚障害の客観的評価を行います。感覚障害は、多くの水俣病患者で認められますが、水俣病以外の様々な原因でも生じるため、それがメチル水銀によるものであるかは他の神経学的所見も含めて総合的に検討しなければなりません。

脳磁計検査から分かること

脳の活動している部分では、僅かな電流が流れ、磁気が発生しています。MEG検査では、この僅かな磁気を計測することで脳の活動状況を正確に捉えることができます。

N20mは刺激から0.02秒後に観察されるピークです。健常者では必ず出現する一方、水俣病患者では減弱ないし消失し、波形が一定しないなどの特徴があるため、この測定により感覚障害の客観的評価が可能となります。

頭部MRI検査

MRIは、脳の形態の情報や脳の萎縮の程度を計測することができる機器であり、それぞれの脳領域の密度や体積を評価します。また、メグセンターでは最新のMRIを用いて検査を行っています。新しい技術で、被験者が動いてしまっても補正を行うことが可能になり、体が動いてしまう水俣病患者にとっても検査の負荷の軽減につながることが期待されます。

頭部MRI検査から分かること

水俣病患者では小脳及び視床が有意に萎縮していました。また、最新のMRIでは脳の神経線維を評価することができますが、水俣病患者では、小脳及び視床の神経線維が減少していました。

これらの結果により、MRIで水俣病患者と健常者の識別に小脳と視床が有用な部位と推定されました。

脳磁計と頭部MRIを組み合わせることで、2022年現在、病気の人が正しく病気であると判断される確率である感度はおよそ8割、病気でない人が正しく病気でないと判断される確率である特異度はおよそ9割という結果が得られました。

検査のご案内

水俣病の客観的評価法の研究にご協力いただける方を募集しています。また、脳の機能に心配がある方に最新の検査を行い健康相談を行っています。

検査の流れ
検査時間
約2時間 ※トイレ等休憩をとることはできます。
対象者
水俣市・水俣市近郊出身で昭和45年より前に生まれた方
検査結果
後日メグセンターで詳しい説明と認知症予防の生活指導を行います。

※注意事項

  • ・磁気の影響をなくすため、金属類は全て外していただきます。
  • ・検査を受けることができない場合がありますので、申込みの際に病歴などを確認させていただきます。

治療研究について

水俣病の症状の一つである痙縮(手足の筋肉のつっぱり)や神経の障害による痛み(神経障害性疼痛)は、これまで有効な治療法がなく、水俣病患者さんの日常生活動作が低下する大きな一因になってきました。近年、このような症状に対する有効な治療法として磁気刺激治療が注目されていることから、メグセンターでは、神経障害性疼痛に対する磁気刺激治療の研究を行っています。また、痙縮に対するボツリヌス治療も岡部病院と協力して行っています。

磁気刺激治療

手術を必要とせず、磁気コイルから発生する磁気を当てることで、ほとんど痛みなく脳を刺激し、症状を軽減する治療です。痛みのある部位と反対側の「運動野」という運動のコントロールに関与する脳の領域を磁気刺激することで、神経障害性疼痛の軽減効果が期待できます。

ナビゲーションシステム

この磁気刺激治療は、治療部位に正確に磁気を当てることが重要ですが、メグセンターでは、「ナビゲーションシステム」を用いることで、正確に治療部位である運動野に磁気刺激を行っています。

磁気刺激治療の効果
  • 神経障害性疼痛が軽減することが期待されます。
  • 治療後リハビリテーションを行うことで、その効果を高めることができます。

※神経障害性疼痛に対する磁気刺激治療の有効性については、多くの報告がありますが、現在のところ保険診療で認められた治療ではありません。本治療研究は、「臨床研究法」が定める認定臨床研究審査委員会(九州大学病院臨床研究審査委員会)の承認を得て実施しています。

ボツリヌス治療

筋肉を緊張させている神経の働きを抑える「ボツリヌストキシン」という薬を注射することで、痙縮を正常に近づけます。

ボツリヌス治療の効果
  • 体が動かしやすくなってリハビリテーションが行いやすくなります。
  • 関節が固まって動きにくくなったり、変形するのを防ぎます。
  • 手足の痙縮をやわらげることにより、痙縮による痛みをやわらげる効果が期待できます。
  • 介護の負担が軽くなります。
  • 首や肩の周りにある筋肉の強い緊張がやわらぐことで、頭の位置が正常に近づきます。
治療のご案内
磁気刺激治療

※現在、磁気刺激治療のお申込みを一時休止しております。

ボツリヌス治療
治療の流れ
ボツリヌス治療の適用がある場合は、岡部病院を紹介します。
治療時間
約30分
対象者
手・足のこわばりが強い方
評価
治療前後にこわばりの程度や関節可動域を調べます。

その他、磁気刺激治療の効果がない神経障害性疼痛には脊髄刺激療法、痙縮にはバクロフェン髄注療法、ふるえには脳深部刺激療法等がありますが、国立水俣病総合研究センターにおいては、磁気刺激治療及びボツリヌス療法のみを実施しています。その他の治療については、「水俣病の治療向上に関する検討班」の専門医に紹介します。まずはかかりつけ医にご相談ください。かかりつけ医がいない場合は、下記連絡先にご連絡ください。

検査・治療に関するお問合せはこちらまで。

臨床部 総合臨床室 担当:田畑

TEL:0966-63-3111