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2011年度上半期(2011年4月1日から9月30日まで)の大気中水銀の観測結果




   (解説)
  観測期間中の水俣市における大気中水銀濃度の平均値は1.8 ng/m³であった。2011年4月から6月にかけては平均値の約2倍の4.0 ng/m³を超える濃度上昇が5回観測された。一方、7月から9月までは4.0 ng/m³以上の高濃度は観測されなかった。高濃度となったときの観測点での地上風向を調べたところ、共通性はみられなかった。そのため、近傍の特定の放出源の影響で大気中水銀濃度が上昇したわけではないと考えられる。

  アジア大陸の東端にあり、偏西風の風下に位置する日本では、偏西風によって大陸で放出された大気汚染物質が日本上空へ輸送される。とりわけ、冬から春にはシベリア高気圧の影響により偏西風が日本上空を通りやすく、その影響も受けやすい(図1)。また、偏西風は上空5000 m付近を流れているため、汚染物質が私たちの生活する地表付近に到達するには上空からの下降気流が必要となり、下降気流を起こす移動性高気圧や寒冷前線の動きも重要となる。アジア大陸では石炭燃焼などにより大気中への水銀放出量が多く1)、都市部の大気中水銀濃度も年平均で約10 ng/m³と高い2)3)。そのため、日本に比べて高濃度の水銀が輸送される4)。

水俣市で高濃度となった日の上空の大気がどこから来ていたのかを後方流跡線解析といわれる手法(NOAAのHYSPRIT model 5)を使用)を用いて調べた結果、5/23以外の日にはアジア大陸から大気が輸送されていたことがわかった(図2参照)。また、そのときの地上天気図6)を確認したところ、高気圧の張り出しや移動性高気圧などの下降気流の起こりやすい気象状況だった。以上のことから、水俣で高い大気中水銀濃度が観測されたのはアジア大陸からの越境輸送によるものと推察される。なお、5/23の後方流跡線解析の結果では太平洋の方向から大気が流入しており、この日の高濃度の要因は現在も調査中である。

    
図1 冬から春(左)と夏から秋(右)の日本付近の気圧配置の概略図. 冬から春にかけてはシベリア高気圧の影響により偏西風が日本上空を通りやすい。一方、夏から秋にかけては日本列島が太平洋高気圧に覆われるため、偏西風は日本の北を通る。
     

 図2 大気中水銀濃度が最も高かった4/4の2時(国際標準時間UTC: 4/3_17時)を起点とする流跡線解析の結果(左)と4/4の9時の地上天気図(右)。流跡線解析では、水俣市の上空1300 m(約850hPa)に到達した大気の3日前までの移動経路を計算した。左図上は水平方向の経路、左図下は鉛直方向の経路で、★が水俣市を表している。また、は6時間ごとにさかのぼったときの大気の位置を表している。


【参考文献】
  1. UNEP, 2013. Global Mercury Assessment 2013 - Sources, Emissions, Releases and Environmental Transport -. http://www.unep.org/PDF/PressReleases/ GlobalMercuryAssessment2013.pdf (Accessed on May, 2013)
  2. Liu, S., et al., 2002. Atmospheric mercury monitoring survey in Beijing, China. Chemosphere 48, 97-107.
  3. Feng, X. et al., 2004. Temporal variation of total gaseous mercury in the air of Guiyang, China. Journal of Geophysical research 109, D3303, doi:10.1029/2003JD004159.
  4. Friedli, H.R., Radke, L.F., Prescott, R., Li, P., Woo, J.-H., Carmichael, G.R., 2004. Mercury in the atmosphere around Japan, Korea and China as observed during the 2001 ACE-Asia field campaign: measurements, distributions, sources, and implications. Journal of Geophysical Research 109, D19S25, doi:10.1029/2003JD00424.
  5. Draxler, R.R. and Rolph, G.D., 2013. HYSPLIT (HYbrid Single-Particle Lagrangian Integrated Trajectory) Model access via NOAA ARL READY Website (http://ready.arl.noaa.gov/HYSPLIT.php). NOAA Air Resources Laboratory, Silver Spring, MD.
  6. 気象庁, 2011. 日々の天気図. http://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/hibiten/index.html