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平成22年5月9日

太地町における水銀と住民の健康影響に関する調査結果について

国立水俣病総合研究センター


【背景】

 和歌山県東牟婁郡太地町より要請を受け、毛髪水銀濃度測定によるメチル水銀摂取状況および健康影響の調査を実施した。

【調査の対象と方法】
  1. メチル水銀摂取状況調査
     太地町住民(人口3,526名、男1,600名、女1,926名、平成21年7月31日現在)のうち、夏季調査(平成21年6月〜8月)では1,017名、冬季調査(平成22年2月)では372名の毛髪水銀濃度を測定した(重複252名、延べ1,137名)。毛髪提供者からは、自記式アンケートによって、魚介類摂取に関する情報を得た。
  2. 健康影響調査
     夏季調査参加者の内、比較的毛髪水銀濃度の高い住民を中心に182名(男105名、女77名)を対象に、神経内科専門医により、通常行われる神経内科診察に加えて二点識別覚検査と上肢運動機能評価システムを用いた検査を行った(平成21年7月〜11月、平成22年1月)。
【結果】
  1. メチル水銀摂取状況調査
    1) 夏季調査の結果、対象者の毛髪水銀濃度の幾何平均値(最小−最大)は、男11.0 ppm(0.74 ppm−139 ppm)、女6.63 ppm(0.61 ppm−79.9 ppm)であった(国内14地域の幾何平均値(最小−最大)は、男2.47 ppm (0.10 ppm−40.6 ppm)、女1.64 ppm (0.01 ppm−25.8 ppm))。

    2) 夏季調査の結果、神経症状の出現する可能性のある下限値とされる毛髪水銀濃度50 ppm(WHO)を上回る住民が、対象者の3.1%、32名(男26名、女6名)にみられた。

    3) 冬季調査の結果、対象者の毛髪水銀濃度の幾何平均値は、男11.2 ppm、女6.46 ppmで、夏季調査と比べて大きな違いはなかった。夏季または冬季調査のいずれかで50 ppm以上の住民は3.8%、43名であった。夏季調査と重複した対象者においては、冬季には毛髪水銀濃度の増加傾向がみられた。

    4) 毛髪水銀濃度とクジラ類を食することの関連性が示唆された。

  2. 健康影響調査
    1)今回調査した対象者には、メチル水銀中毒の可能性を疑わせる者は認められなかった。

    2) 上肢運動機能評価システムによる解析の結果、太地町検診受診者に多くみられた「上肢不随意運動」(振戦)は病的なものである可能性は低いと考えられた。

    3) 神経所見のうち、アキレス腱反射の低下・消失のみ毛髪水銀濃度との相関が認められたが、今回検診を行った太地町住民は、水俣病非発生地区の鹿児島県大島郡K町住民と比べて有意にアキレス腱反射の低下・消失の頻度が低いため、メチル水銀による影響である可能性は低いと考えられた。
【今後の調査について】

 太地町において、今回の調査ではメチル水銀によると思われる健康影響は認められなかったが、毛髪水銀濃度が非常に高い住民を認めるため、調査の継続が必要である。平成22年度以降も毛髪水銀測定および神経学的検査を継続するとともに、小児や循環器系への影響などを、国立水俣病総合研究センター外の専門家も含めた研究班を設置して調査研究を進めることを検討している。また、感覚障害の客観的評価法として脳磁計が活用できないか研究を進めており、太地町住民からも、今後の研究に活かすためデータの収集を行った。


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なお、平成22年5月9日(日)の記者発表時に配布された資料に誤り(3頁と16頁)がありましたので
訂正版を掲載しています。 更に6月16日(水)に以下の修正を行いました。

  • 2ページ、3ページ、および6ページの【解析方法】について、「χ自乗法」→「χ2(カイ自乗)法」に修正。
  • 表11(17ページ)、表12(18ページ)、表13・表14(19ページ)、表15(20ページ)、表16(21ページ)、表17(22ページ)、表18(23ページ)について、脚注の表現を修正。
  • 表12(18ページ)、表14(19ページ)、表16(21ページ)、表18(23ページ)について、表中の「有意差なし」→「相関なし」に修正。
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