水銀の研究
いろいろな水銀
水銀の研究
水俣病の原因がメチル水銀であると分かるまで、水銀という物質に対する研究者の関心は決して大きなものではありませんでした。「水俣病」をきっかけに、水銀の研究は大きく進歩したといっても過言ではありません。しかしながら、環境内での水銀の動きや、私たち人間の体の中でメチル水銀がどのように作用するかについては、今なお分からない点が数多く残されています。
いろいろな水銀
水銀化合物には数多くの種類があります(無機水銀・有機水銀)。その⼀例をご覧下さい。
金属水銀
(Hg0) |
体温計などに使われる最も身近な水銀です。気化しやすく、そのガスを吸いすぎると、肺、腎臓、脳などが冒されます。 |
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酸化水銀
(HgO) |
ほとんど水に溶けません。防腐剤として使われてきました。結膜炎や角膜かいようをおこします。 |
硫化水銀
(HgS) |
水に溶けません。赤い色素として、神社の塗装や古墳の装飾にも使われました。自然界の水銀の大半がこの形で存在します。 |
塩化水銀
(HgCl2) |
毒性実験の大半に使われる無機水銀です。消化管から吸収されにくいために、注射によって動物に与えます。重い腎臓障害を起こします。 |
塩化メチル水銀
(CH3HgCl) |
メチル水銀の塩化物。水俣病の原因物質です。体内に入ると、体中いたるところに分布します。 |
水銀のリサイクル
時計、カメラの電池、蛍光灯、携帯電話やコンピュータの液晶画面など私たちの生活必需品には、水銀が幅広く使われています。そして水銀を含む製品が使用済みになったとき、ゴミとして廃棄されるものもあります。そこで、環境汚染を未然に防ぐとともに、廃棄物の再資源化により有効に活用するためリサイクルが求められています。
自然界での水銀の動き
自然界での水銀の動き
火山活動や化石燃料の使用で地表に出てきた水銀は、その形を変えながら自然界を循環しています。このうち、大部分は硫化水銀という安定な化合物です。⼀方、わずかながらメチル水銀に変化したものが水棲生物の食物連鎖を介して私たちの体の中にも入ってきます。しかしその影響は大変少なく、通常は健康への影響はありません。問題になるのは何らかの原因で局地的に高濃度の汚染が起こった時です。
水銀の循環
食物連鎖による水銀の食物濃縮の⼀例
海水に溶けているメチル水銀はエラや腸管から直接生き物のからだに取り込まれ蓄積されます。⼀方、食物連鎖網の中に占める地位(栄養段階)が高い生き物ほど水銀の濃度が高くなる傾向があります。どちらも生物濃縮と呼ばれます。
ここでは、水銀に汚染されたヘドロがまだ残っていた頃の水俣湾の定着性の魚について、食性と水銀濃度の関係を示しています。
水俣湾に定着して暮らす魚の昭和60年(1985)における水銀濃度
水銀測定法の今昔
測定法の今昔
過去(1960年頃まで)
⽐色定量法(総水銀の測定)
ジチゾンという緑色の試薬が、水銀と結合して発色する濃さで測定します。
この方法では、1/1,000,000(百万分の⼀)g程度の水銀が測定できます。
ジチゾン-水銀複合体
現在(国立水俣病総合研究センターの方法)
原子吸光法(総水銀の測定)
水銀蒸気特有の紫外吸収スペクトルで測定します。
試料中の水銀を蒸気(Hg0)に変えるために、①還元気化法、②加熱気化法の二通りの方法があります。
この方法では、1/1,000,000,000(十億分の⼀)g以下の水銀でも正確に測定できます。
総水銀の測定装置
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還元気化装置
還元気化法:第⼀スズイオン(Sn2+)の還元作用により、試料中の水銀を気化させます。 -
加熱気化装置
加熱気化法:加熱(800℃、数分間)により、試料中の水銀を気化させます。
ECD-GC法(メチル水銀の測定)
試料溶液中のメチル水銀のみをトルエンなどの有機溶媒で抽出した後、ECD-GC(電子捕獲検出式ガスクロマトグラフィー)で測定します。この方法だと、1/10,000,000,000(百億分の⼀)g以下の水銀を正確に測定できます。
メチル水銀の測定装置
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ECD-GC
土壌からの水銀回収(加熱法)
土壌処理システムの解説
この装置は水銀に汚染された土壌や底質から水銀を除去し、汚染土壌/底質を修復するために開発中のものです。研究室では、特殊な添加剤を加えた加熱処理で、容易に汚染土壌/底質から水銀を取り除くことに成功しています。さらに実用化に向けて研究中です。
① 添加剤を混ぜた土壌/底質を装置へ投入します。
② ロータリーキルン内部で、約300℃に土壌/底質を加熱し水銀を蒸発させます。
③ 処理終了。清浄な処理土壌/底質です。
④ 空気中のチリやゴミを取り除きます。
⑤ 取り除いた水銀を回収します。
⑥ きれいな空気を大気中へ放出します。